
野良ネコちゃんです。女の子で犬歯が生えかわろうとしておりますので生後5カ月前後でしょうか。目と目の間に皮膚炎があるのがわかりますか?実を言うと
カイセン症という感染症です。さらに目ヤニとくしゃみがあります。猫伝染性鼻気管炎というヘルペスウィルス感染症です。ここ2週間治療してきてやっとここまでよくなってきたところです。ところが右耳の先(赤矢印)を見てください。例の
先割れスプーンです。最近までなかったはずなのに連れてきた人も急にできたと言っております。まさか!

やっぱり。なんとこの状況で誰かが避妊手術に連れて行ったようです。それは親切心から仕方がないとして、手術部は大人の指1本分は腫れあがり(赤い丸の部分)黒い線の部分3か所手術部が開いてしまっています。なめこわす子は時々そういうことがあるかもしれませんが、普通そうなってしまってもきれいな組織である肉芽組織が盛って治ります。でもこの子は腫れの原因である膿がしみ出ておりました。埋没縫合の糸を通している部分をみると明らかに技術が未熟です(ファミリー動物病院での手術ではありません)。野良ネコちゃんの場合、二度と捕獲できなるなることもあるため、基本的に術後検診は出来ない覚悟で手術しなくてはなりません。普通の埋没縫合ではだめなんです。汚い所へも行くかもしれないし。毛刈りも青い矢印の部分だけ妙に刈り込んであったり雑です。この子は体重が1.6kgしかありません。これは生後3か月の体重です。しかもこの3週間まったく増えていないんです。ファミリー動物病院でも野良ネコの手術をよく頼まれますが、歯が生えかわる年齢に達しているのに1.6kg、この目の周りの皮膚炎があったらとりあえず手術は延期です。確かにかわいそうな野良ネコが増えるのを防ぐことも大事ですが、この子の命も大事なので無理はしません。いつものカイセンの注射の中に長期間効果のある抗生剤を注射して帰しました。これで傷は癒えると思いますが。

野良ネコを手術、入院などで入院室に入れるときは細心の注意が必要です。この子を例にとると、まずカイセンです。これは感染力が強く、他の動物への伝播の恐れがあるため、避妊手術は病気、事故などの緊急性があるものと違うので手術より治療が先でしょう。人にも感染します。普通の消毒ではだめでしょうから、手術台の上の汚染が危険です。それからこの写真ですが、これは吸入麻酔器です。麻酔薬の入ったガスを、呼吸させることによって麻酔するのですが、これが曲者です。すなわちこの子のように呼吸器感染症を持った子を麻酔した後に、別の子の手術で麻酔したとしたらその子に感染します。

上の吸入麻酔器の写真の赤い矢印の部分を蛇管(じゃかん)と呼びます。これは何本か用意しておき必ず滅菌しておきます。麻酔器を介して呼吸器感染症の伝播のリスクを下げるためです。

当然動物の気管を確保する気管チューブも感染源となりますので、滅菌か、ディスポーザブルします。

これらのものを滅菌するにはガス滅菌器がどうしても必要となります。ファミリー動物病院では医局(宿直、着替え、フードなどのストックに使っている部屋)にあります。これは野良ネコに限らず、院内感染を防ぐうえでとても大切なことです。
ファミリー動物病院では入院室が2部屋あるので、一つの部屋を隔離室として使用することも当然あります。このように、野良ネコちゃんの診察、手術も行っておりますが、院内感染に最大限注意を払ってまいります。